田村隆一「腐敗性物質」講談社文芸文庫

何よりも言葉への思いにあふれている。
たかが言葉と言うなかれ、
詩の言葉のチカラを見よ。

「遠い国」

ぼくの苦しみは
単純なものだ
 遠い国からきた動物を飼うように
 べつに工夫がいるわけじゃない

ぼくの詩は
単純なものだ
 遠い国から来た手紙を読むように
 べつに涙がいるわけじゃない

ぼくの歓びや悲しみは
もっと単純なものだ
 遠い国からきた人を殺すように
 べつに言葉がいるわけじゃない