塩野七生「ローマ人の物語」新潮文庫

塩野七生畢竟の大作である。
文庫版で全43巻あり、読み応えは満点といえる。

これは、歴史書なのかフィクションなのかという
疑問があるが、紀元前からの物語を事実だけで
構成することは不可能であり、そこには想像や
作者の思い入れが反映されている。

特に、作者は「ハンニバル・バルカ」や
「ユリウス・カエサル」が大好きなようで、
ハンニバル戦争やルビコン越えの話では、
作者の高揚感に巻き込まれてしまうほどである。

ローマ帝国がどのようにして生まれ、滅びていったかを、
歴代の皇帝たちの生き方に寄り添いながら俯瞰することで、
「平家物語」の栄枯盛衰を、壮大なスケールで感じられるだろう。

ところで「ユリウス・カエサル」は大変な女好きだったそうで、
彼が凱旋してくるとローマ市民は、
「ハゲの女たらしが帰ってきた」と
女房や娘を隠したそうだ。
なるほど「英雄色を好む」とはここから来たのか。

アミン・マアルーフ「アラブが見た十字軍」ちくま学芸文庫

十字軍は学校の教科書で習っただろう?
でも、そのときは当然西洋寄りの表現で記述されていたわけだ。
ところがこれは180度反対のアラブ側から見た十字軍なのだ。

驚いてしまうのは、当時のアラブが西洋よりも
文化的で、平等な世界を構築していたと言うことだ。
もちろん反対側から見ているわけだから、
それなりの偏見もあるだろう。
しかしわたしたちもこれまで偏見を持って見ていたわけだ。
当時のアラブ世界は、
内部抗争(国家間、王家内部)に明け暮れながら
キリスト教世界の侵略(十字軍)を受け、
さらにはモンゴルまでやってくるのだ。
なんという歴史のダイナミズムだろう!

岸田秀「ものぐさ精神分析」中公文庫

実は本当に読んで欲しいのは「続」の方なのだ。
でも順番が大事なのさ。
いきなりぢゃ過激に受け止めかねないからね。
それは「性差別は文化の基盤である」
と題されたエッセイである。

誤解を招くことを承知で簡単に書こう。
現代社会で女性が選ぶことが可能な道は3つしかない。
1.「妻」という名のオブラートにくるまれた娼婦になる
2.性を商品化したあからさまな娼婦になる
3.性的自由を追求する=無料(タダ)でやらせる娼婦になる

さぁ、あなたはどの道を選ぶのだろう。
もちろん新しい選択肢を生み出すために、
社会を変革することだって可能かも知れない。
まずは読んでから。そして考えてみよう。

荒俣宏「大東亞科學綺譚」ちくま文庫

国益や使命感と言った空虚な言葉ではなく、
個人の夢を紡いだ男たちのお話である。
生前の評価や好き嫌いはともかく、読んで欲しい。
昭和3年「學天則」という人造人間を造った西川真琴は、
俳優、西川晃の父親でもある。
そのロボットには賛否はともかく世界人類としての
夢が込められていた・・・・。
現代で言う凍結粉砕法の夢を追った、星一。
小説家、星新一の父親でもある。
彼は、アメリカで野口英世と出会い、
発明王エジソンにも面会している。

過去の偉人たちに、学べなんて言わない。
心躍らせることの少ない時代に、
ちょっとわくわくしてみるのもいいぢゃないか。