山本昌代「文七殺し」新潮文庫

戦国時代好きのお父さんの期待には沿えない。
捕物帖好きのお父さんの期待にも沿えない。
市井の暮らしを描いたほのぼの時代物とも
一線を画している。

登場するのは、
許婚を愛するあまり殺してしまう娘、
生身の女より美人画に惚れて、
その代筆に精魂傾ける絵師、
そして・・・化け物。

「化け物退治」を読み終わったとき、
あなたは怒りとも悲しみとも区別できない
不思議な感情に支配されているはずだ。
江戸時代は冷酷と愛とが同義語だったのかと
戸惑いの中に沈むかも知れない。