中野美代子「契丹伝奇集」河出文庫

「あら、旦那さま、おかえりなさいませ」
くろぬりのベンツがまえぶれもなくくるまよせに
すべりこみましたので、・・・

これは「女俑(じょよう)」という短編の冒頭である。
あらっ、と思うだろう。
古代中国の話ぢゃないの?
なんかやたらひらがなが多くない?
そうなのだ。中野美代子の想像力は時空を飛び越え、
文章を自在に操り、
読者を混沌と幻想の迷宮に引きずり込む。
まるで蟻地獄だ。

捕まりたくないひとは近づかない方がいいかも知れない。
でないと気づいたときは
墓の中で女俑にされているかも知れないから。