石垣りん「石垣りん詩集」ハルキ文庫

石垣りんさんは、1920年生まれ。
14歳から銀行で事務職をしながら詩を発表してきました。
石垣りんの詩は、生活に密着した小さき者の心をうたう。
女性と社会との関係から紡がれた言葉を聞いて欲しい。
では、ひとつ紹介しませう。

「シジミ」
夜中に目をさました。
ゆうべ買ったシジミたちが
台所のすみで
口をあけて生きていた。

「夜が明けたら
ドレモコレモ
ミンナクッテヤル」

鬼ババの笑いを
私は笑った。
それから先は
うっすら口をあけて
寝るよりほかに私の夜はなかった。

ジェイムズ・ヘリオット「ヘリオット先生奮戦記」ハヤカワ文庫

ジェイムズ・ヘリオットさんは、
イギリスはグラスゴーの生まれ。本当に獣医さんです。
彼は50歳を過ぎてから、自分の経験をもとに作品を
発表しました。
彼の作品はどれも、イギリスの田舎の自然やそこに生きる人々、
そして動物たちへの愛に満ちています。

物忘れの激しいファーノン先生
ファーノン先生の弟で要領良しのトリスタン
ヘリオット先生の愛するひとヘレン
そして舞台となるダロウビーの人々・・・
この物語は、人と動物たちとのふれあいの中に
私たちが忘れつつあるものを思い出させてくれます。

続編もでてますよ(^-^)
「Dr.ヘリオットのおかしな体験」集英社文庫
「ヘリオット先生の動物家族」ちくま文庫
「愛犬物語」(上下)集英社文庫
「犬物語」集英社文庫
「猫物語」集英社文庫
是非、ご一読ください♪

ヘミングウェイ「ヘミングウェイ全短編」新潮文庫

男臭い作家、というイメージがある。
直線的な文章で淡々と事実を突き通してゆくような
ライフルを構えた狩人のようなイメージが。

だから作品をあまり読まなかったのだ。
「なんか疲れちまうよな」って気がして・・・。

そんなひとにはこれを読んで欲しい。
先入観を打ち壊される快感に、
あなたは眩暈さえ覚えるだろう。
いや心地よい驚きなのだ。
荒れ果てた荒野が広がると思っていた山の向こうに、
青々と水をたたえた静謐な湖を見つけたような。
さぁ、ちょっと時間を作って読み出そう。
全短編を読み終わったとき、
あなたにはちょっと違う世界が見えていることだろう。

ジョーゼフ・ヘラー「キャッチ=22」ハヤカワ文庫

ひとつだけ落とし穴(キャッチ)があった・・・
そしてそれがキャッチ=22だった。

キャッチ=22は軍規である。
おらゆるものを戦場に送り込み死に至らしめる。
すべての兵士が逃れられないその宿命・・・・
それはキャッチ=22があるからだ。

第二次世界大戦末期、中部イタリアのピアノーサ島。
アメリカ空軍のヨッサリアン大尉は
何とか生き延びようとしていた。
仮病を使い、狂気を装い出撃を回避する・・・・。
しかし彼の部隊を支配するのは、
だれもが死地へ赴かねばならない軍規・・・
キャッチ=22だった。

抱腹絶倒のブラックユーモアが織りなす戦争の狂気。
現代社会(アメリカ)の不条理を鋭く風刺して、
発表時(1955)、若者たちから絶大な支持を得た
ヘラーの代表作です。

原民喜「夏の花」集英社文庫

1945年8月6日に広島を襲った原子爆弾は
皮肉にもひとりの詩人の人生を長引かせることになる。
なんという矛盾だろう!
その前年、妻を結核で失った原民喜は、戦争の中、
自らの命の終焉を望んでいたと思われる。
そして被爆・・・。

焼け落ちた広島の市街地は死体で埋まり、
傷ついた人々のうめき声に充ち満ちた・・・。
原民喜は、この人間存在の凌辱とでもいうべき
凄惨な地獄絵図に直面し、
「このことを書きのこさねばならない」と
固く決意する。

そして6年・・・
使命を果たし終えた原民喜は、線路に静かに身を横たえ
帰らぬ人となった。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス「伝奇集」岩波文庫

ボルヘスは事実のメカニズムには関心がない。
このアルゼンチンの作家は知識と幻想の人である。

かれの作品は
真偽の必ずしも明らかでない博識
シリアスな象徴体系
知的なユーモア
エキゾチックな背景
神秘的な雰囲気、に満ちあふれている。

ひとたびバベルの図書館に迷い込んだら、
誰も逃げおおせはしない。
砂のように指の間からこぼれ落ちる言葉の迷宮で、
迷い続けるしかないのだ・・・。

ピーター・S・ビーグル「最後のユニコーン」ハヤカワ文庫

道具立ては単純である。
最後のユニコーンは、仲間たちを探すため
ハガード王と「赤い牡牛」を求めて旅に出る・・・。

途中で出会った無能な魔術師は一世一代の大魔術で、
「赤い牡牛」に敗れそうなユニコーンを姫君に変身させてしまう。
やがてハガード王の王子、リーアに恋してしまう。
そして再び「赤い牡牛」との対決。
魔術師は姫君を、ユニコーンに戻してしまう。
敗走するユニコーンを救うのは・・・?
魔術師はリーア王子に言う
「そのために、英雄が、いるのです」

さてさてこの結末は?
わたしがこの本を読んだのは1979年!
まさに名作と呼ぶにふさわしいファンタジーです。

荒俣宏「大東亞科學綺譚」ちくま文庫

国益や使命感と言った空虚な言葉ではなく、
個人の夢を紡いだ男たちのお話である。
生前の評価や好き嫌いはともかく、読んで欲しい。
昭和3年「學天則」という人造人間を造った西川真琴は、
俳優、西川晃の父親でもある。
そのロボットには賛否はともかく世界人類としての
夢が込められていた・・・・。
現代で言う凍結粉砕法の夢を追った、星一。
小説家、星新一の父親でもある。
彼は、アメリカで野口英世と出会い、
発明王エジソンにも面会している。

過去の偉人たちに、学べなんて言わない。
心躍らせることの少ない時代に、
ちょっとわくわくしてみるのもいいぢゃないか。

アルフォンス・アレー「悪戯の愉しみ」福武文庫

アレーは19世紀末のフランスで活躍した
小ロマン派の作家である。

かれの交友関係には
画家のロートレックや、作曲家のエリック・サティなどがいる。
アンドレ・ブルトンは一般的なユーモアの範疇におさまらない
アレの作風を評して、
「エスプリのテロリズム」と呼んで、最大級の賛辞を送った。

この短編集はアレーの掌編47編を納める。
冒頭の「親切な恋人」は
寒い部屋に恋人を招いたオトコが、
寒がる恋人のために、自分の腹を皮膚だけを切り裂き、
そこに恋人の足をぬぷりと入れて、内臓で暖めてやる話である。
翌日、その傷口を丁寧に縫い合わせる恋人とオトコとは
いっそう強い絆で結ばれたのであった。

この暴力的なユーモアに耐えられますか?